木屋で牡蠣体験&クルーズ
「神と牡蠣の非日常」
宮島を望む牡蠣船で、家族のおいしい社会科見学旅。
「神と牡蠣の非日常」
宮島を望む牡蠣船で、家族のおいしい社会科見学旅。
「ソウくん、船好きなんですか? 私、この前広島で艦船を見学するクルーズに行ってきたんですけど、すっごくよかったですよ!」私の行きつけの花屋のお姉さんが前のめりにお薦めしてくれる。オンラインの授業が増え、家にいることも多くなり花を買う頻度が高くなった。おうち時間の充実の一環だ。
オンラインのありがたさも感じる一方、子供が体験する場が減っていることはやはり否めない。毎年、ソウの誕生日にかこつけてプレゼントとして家族で旅行に行くことにしている。今年も、体験と発見を与える旅をしたかった。
「護衛艦や潜水艦もいいけれど、美味しい体験ができる船のプランもあるといいよね…」そうして、牡蠣船体験もできる、広島に行くことに決めた。
「広島はね。海はもちろん川も多く流れてる町なの。いろいろな船に乗れるからソウも絶対うれしいよ!」「やった!いいね!」自然寄りな体験を好きになってきているのは、兼業で農家をしている夫の影響も大きいと思う。
夫には「ほら、実は私たちも、広島に行ったことがなかったじゃない?あと美味しい海産物もたくさんあるみたいだし。今回の私たちのお楽しみは…牡蠣でどうでしょう!」と、大人には大人のテーマを提案。優しい夫は、たいてい受け入れてくれる。
初の広島ということもあり、行き先には定番の宮島も加えた。今は嚴島神社の大鳥居は修理工事中だがそれもきっと、また行くお楽しみになるだろう。今回は、船の体験と牡蠣をメインに、旅程を組んでみた。
朝広島に到着し、原爆ドームから宮島直行の高速フェリーに乗ると、ソウは早速興奮していた。宮島散策後、約10分間の連絡船で本島に戻り、本日のメインイベントが行われる島田水産に向かう。今度は瀬戸内海をのんびりとクルージングしながら牡蠣づくしなんて、我ながらいいプランだと思った。
そう、嚴島神社を擁する宮島と、その対岸の宮島口に囲まれた穏やかな海域は中国山地から栄養豊富な水が流れ込み、牡蠣の養殖に適した環境となっているのだ。職業柄、夫もこういう話には目がない。
「あ、バーベキューできる!」
到着するなり、ソウが嬉しそうに声をあげる。宮島口駅から徒歩約10分、牡蠣の養殖・販売をしている島田水産に到着だ。入り口には開放的な「かき小屋」がある。牡蠣を多くの人に食べてもらうために、「牡蠣の水揚げ体験」や「牡蠣入り中華まん」の開発などのチャレンジをしているそうだ。
海ではなく畑であるが同じようなことをしている仕事柄、勝手に親近感を覚える。取れる場所と食べる場所が隣接していることはとても贅沢なことだと思う。
「海の上に小屋があるよ!」 空いたお腹を楽しみに変えて、クルーズの入り口へと向かう。足漕ぎのボートから、収穫用の船まで、船好きのソウは喜んでいる。その奥には、先代が明治時代から営業していたかき船を復活させた屋形船!本日のクルーズ船とついにご対面だ。
島田水産の歴史は約330年前の江戸時代までさかのぼり、明治時代には大阪・京都の川で「元祖かき船」を営業していたそうだ。お店を始めた初代「木屋周蔵」さんから名前をいただき「元祖かき船 木屋」としたらしい。
背景が宮島沖だからか、浮かぶ姿もなんだか神々しい。手を取り合って乗り込む。両サイドが全面窓になっており、その窓に面してテーブルが据えられている。さっきいた反対側から眺める宮島!そして牡蠣づくし!江戸時代、移動手段がなかった頃の人々の気分になると、景色もことさら美しい。
「大体20人くらいでお楽しみいただけますね!」スタッフさんが案内してくれる。いつか近所のバーベキュー仲間とも来られたら楽しいだろうなと思う。
エンジンがかかり、ゆっくりと沖へ。今日すでに3回目の船だけれど、回を重ねるごとに嬉しそうなソウの顔を見ているだけで来た甲斐があったと思う。窓に広がる山々の奥に、対岸の工場地帯まで見渡すことができる。水面が近いので迫力がある。先ほど乗った連絡船が遠くに見える。
沖へ出ると、牡蠣養殖のいかだが見えてきた。「乗ってもらうこと、できますよ!」スピードをゆるめてもらい、船首にみんなで出る。夫に手を取られながらソウも飛び移る。バランスを保ちながら、いかだにぶら下がる牡蠣を眺める。畑の作業とは違った大変さがあるであろう、海の仕事の大変さに敬意を抱く。
「ここは、牡蠣を仕上げる場所でしてね。実入り漁場と言いますね。餌が多くて身が太りやすいんですよ。この大きないかだをね、船で別の海から引っ張ってくるんです。経験をもとにローテーションさせて、美味しい牡蠣を作るんです」気さくなスタッフの方が教えてくれる。普通のクルーズなら景色と歴史がメインになるけれど、体験重視の私たちとしてはこういった説明がありがたい。
いかだから船に戻ると、鼻をくすぐるいい香りがしていた。磯の香りに鼻の穴が大きくなる食いしん坊3人。耳まで大きくなったのは、グツグツとした音のせいだった。「お食事の準備をしますね!」見てみると、火にかけられた釜の上、蓋がお出汁の泡で揺れている。吹きこぼれるものをつい舐めたくなるが我慢する。
修理工事中ではあるものの海から眺める大鳥居、その奥に構える嚴島神社は幻想的な雰囲気で、「お腹ぺこぺこだよ!」と言っていたソウも、しばし言葉を失っていた。親子で言葉を失うこの瞬間。体験旅の醍醐味だと思う。
島田水産から車で5分ほどの場所にあるのがトーマスリゾート。生まれも育ちも地元であるシェフが土地の恵みを生かしたイタリアンを作り上げます。ピッツェリアトーマスで特におすすめのピザは冬季限定の「牡蠣とホタテのバター醤油」。県内トップブランド牡蠣に認定された牡蠣を養殖する「島田水産」の牡蠣を使用しています。石窯での本格ピザ焼きも体験できますので、ぜひ親子で足を運んでみては。
https://thomas-resort.com/pizzeria.html
「波を受けにくいところで食事にしましょう!」スタッフの方が、最高の食事のセッティングをしてくれる。「ソウには新しい体験だもんね、ね!」と夫を説得したお待ちかねの「牡蠣づくし」だ。好き嫌いなく、新しいものもチャレンジするソウは畑のそばで働く私たちの良いところを受け継いでくれていると思う。ありがたい。
お弁当の蓋を開けると、まずローストビーフ、お刺身が目に飛び込んでくる。そしてその脇を固める「主役」たち!
牡蠣の天ぷら、牡蠣の佃煮、牡蠣のオイル漬け…。そして卓上コンロに火が入り、焼き牡蠣が乗り、先ほど鼻と耳を刺激してくれた牡蠣の釜飯の登場だ。「わぁ!」子ども用にはオムライス、ハンバーグの定番に加え、しっかりと牡蠣のクリームコロッケも入っている。
エンジンの音が止むやいなや「いただきます!」と食いしん坊3人は手を合わせる。家族3人来させていただきありがとうございます、と宮島の神様に。同じように自然を相手に美味しいものを提供してくれる生産者さんありがとうございます!の気持ちもたっぷり込めて。
牡蠣の香りが漂ってくると、殻が弾ける音がする。これも焼き牡蠣の醍醐味だ。牡蠣の気持ちになってみると、陸で食べられるより嬉しいだろう。生とは別の香ばしさとジューシーさ。開いた窓から入る心地よい宮島の空気と一緒に頬張ると一層の旨みを感じる。
牡蠣の釜飯の蓋を開け、ご対面。畑を耕すような感じでしゃもじを入れると、はちきれんばかりの身がごろごろと入っている。「美味しい!!」ソウにも分けると夢中で食べていたオムライスの手を止めて笑う。初牡蠣体験、大成功と言っていいだろう。
お椀には牡蠣のすまし汁。蒸された牡蠣と焼き牡蠣と、佃煮とオイル漬けと…。それぞれの魅力、それぞれの磯の香りが足し算ではなくかけ算で、口から胃へ、胃から体中へと染み渡っていく。3人横並びで窓から海を眺めながら目を閉じる。
「雪が積もった時だけに見られる風景があるんです。海からね、湯気みたいなものが上がるんです。鳥居の朱色、雪の白。それを照らす朝日を受けての水揚げ。宮島は桜が少ないんですが、紅葉がいい。バックに眺めながら牡蠣を食べるのも最高なんですよ」四季折々、いつも最高じゃないですか、と笑顔でつっこみたくなる。また来ようね、とソウに告げる。
牡蠣づくしを堪能し「ごちそうさまでした!ありがとうございます」と手を合わせ、ゆっくりと島田水産に戻る。雲の隙間から光が差し込む。神様の島を抱く海であることを実感する。さっき乗せてもらったいかだの奥に工場、山、ホテルが見える。みんながみんな、それぞれの持ち場で支え合いながら頑張っていることを感じる。それを眺めるソウの横顔を見て、早く色々なところでたくさんの体験をできるようになるといいね、と願う。
島田水産では牡蠣を生産している現場を漁師さんと一緒に体験できる「牡蠣の水揚げ体験」プランを用意しています。朝7時に集合、漁船に乗船し、沖合まで10分ほどのクルージング。ずらりと並ぶ牡蠣いかだに接近して、迫力満点の牡蠣の水揚げ風景を間近で見学。牡蠣がびっしりと付いた約10メートルの垂下連が海上に出てくる姿は圧巻です。島田水産に戻ったら、牡蠣をあげる様子や牡蠣打ち風景を見学し、漁師飯を堪能しましょう。
ソウが、これからどう育っていくのか。何が好きになるのかは分からない。が、栄養たっぷり、素材として万能選手、メインにもなればソースにもなる汎用性。根強いファンを持ち、お酒との相性も、縁起も良い。何より夢がプリップリに詰まっている…。そんな牡蠣のように育ってほしい。とは、言い過ぎか、食べ過ぎか。
いずれにしても、私たちこそ穏やかで、栄養豊かな海にならないといけないな。きっかけとなる体験を、これからもたくさん与えていきたいと思います、と海の神様に誓った。
島田水産には「日本で一つだけの最高の牡蠣を造ろう」という高い志の基に作られたブランド牡蠣があります。全国で初めて成功したシングルシードと呼ばれる手法を用いて、5年の歳月をかけて作り上げた「安芸の一粒」。その中でも優秀な牡蠣を抽出して、生後数ヶ月で出荷する幻のバージンオイスター「厳蠣(げんき)」です。事前のご予約で「かき小屋」でも食べることができるそう!