県北で、ワイナリーと
観光農園体験
「やまなみ薫る非日常」
果実の恵みをまるごと楽しむ、
家族のアウトドア旅。
「やまなみ薫る非日常」
果実の恵みをまるごと楽しむ、
家族のアウトドア旅。
「自然の中で、家族の体験。やっぱりいいですよ。宮島を眺めながらの牡蠣、格別でした」下の子のパパ友と一緒に釣り糸を垂らしながら、ジュンジは深く頷いた。
自粛期間中に覚えた釣り。釣った魚を家で料理すると、家族は喜んでくれる。外出できない時はベランダでキャンプごっこ。お米を炊いたり、ボードゲームをしていた。
久々の旅行の計画。広い場所で、本当のキャンプができたらいいな…でも、それだけでは足りない。「広島ね…」パパ友の勧めで観光スポットを調べていると、あった。これだ。
家族を一つに結ぶキーワード。それは「果物」だ。早速、妻に提案する。
「やまなみの幸を味わいに行こうよ。ママはブドウ、子供たちはいちご。どうかな?」
「冬にはスキーもできちゃうのか…」
瀬戸内海のイメージが強い広島県だったが、山や森林の観光スポットも多数あることを初めて知った。加えて、尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長約60kmの「瀬戸内しまなみ海道」が「中国やまなみ街道」と連結して島根県松江市まで続いていることも。
果物とキャンプごっこが好きな子供たちには体験を。それだけなら近場でもよかったけれど、妻にも喜んでもらうための要素を探していた時だった。
「日本では4箇所でしか作られていない『貴腐ワイン』という希少なワインがある…!」
ボトルで買うにはそこそこの釣り竿が買えてしまう値段だけれど、現地なら試飲もできる!それを伝えるとワイン好きの妻も興味津々に。そうして広島市内からレンタカーでおよそ1.5時間程度、広島三次ワイナリーに到着した。
ここ三次は昼と夜の寒暖差が大きく、冬の時期になると幻想的な霧の海に包まれるため「霧の町」とも言われている。その気候がワイン作りにも適しているそうだ。
車を降りるなり駆け出す子供たち。たしなめて一緒に館内に入る。
ワイナリーでは妻優先。まずは地下貯蔵庫の見学だ。階段を降りると薄暗く、少しひんやりとした空気に包まれている。ここには約200本の樽があるそうだ。1樽はボトル約300本。計算してみると…6万本!それを聞いただけで、妻もうっとりとした目をしている。
お次は試飲だ。「女性たちが選ぶとっておきのワイン」受賞のPOPが輝くレギュラーワイン、霧里(きりり)ワイン6種類を無料で飲み比べすることができる。娘たちはぶどうのジュース。「おいっしー!」娘たち。ジュースも、女性が選ぶとっておき、のようだ。
他にも地元産チーズやジビエ、鮎の加工品からお漬物まで。広島中のありとあらゆるおつまみが集結しているのではないか?という魅惑の品揃えだった。
「あっちでTOMOÉワインと、例の貴腐ワインの試飲ができるみたいだよ」
川→霧→雲→雨→…と水が巡る街、三次。その自然の素晴らしいサーキュレーションが巡る形「巴」をデザインに取り入れたロゴ。各国のさまざまなコンクールでも受賞をしているTOMOÉワイン。そして世界的にも希少な「貴腐ワイン」。特殊な気候条件が影響するため希少価値が高く、ハチミツのような極甘口で濃厚な香りを持つ最高級白ワインだ。
独身時代は一人で醸造所まで足を運んでいた妻。今日くらいは、しばし一人の世界を味わってもらいたい。貴腐ワインは試飲でもいいお値段だ。
「遠慮しないで飲んでね」
ドライバーの僕は説明だけ味わうことにした。「チョコレートやバニラ、ヘーゼルナッツ、コーヒー、ココナッツを思わす香ばしく甘い香りとさくらんぼのシロップ漬けなどのフルーティな香り。甘さの中にカラメルのようなビターな印象を感じる」とある。なるほど、だからデザートワインか。
横で妻がグラスを傾ける。目で愛でて、鼻から、いっぱいに土地と時間の恵みを堪能する。そして、口に含む。妻の周りだけ、時間が止まったように見えた。久しくこんな表情を見てなかった。見とれてしまった。
「…幸せです」妻がスタッフの方に告げる。
「ありがとうございます。果汁が凝縮された干しブドウのような状態になった良い貴腐ブドウは、条件が重ならないとできません。一粒一粒ピンセットでより分けて、絞るだけでも数日かかって…。とても貴重で、幸せなお酒なんです」
妻が、まだうっとりとした顔で聞き入っている。
「霧里ワインは買ったし…貴腐ワインは、余韻だけ持って帰るわ」
満足しきった笑顔の中に、ほんの少しだけ後ろ髪引かれている表情を見た。
そして僕たちは次なる目的地、色々な体験ができる平田観光農園へと向かった。
三次ワイナリーの向かいにある「みよしあそびの王国」は、カラフルでかわいい遊具がいっぱいの楽しい遊び場です。ローラーコースターなどの大型遊具のほか、乳幼児エリア、児童エリアと年齢に合わせて3つのゾーンに分かれていて、色々な大きさの遊具があるので安心です。
広島三次ワイナリーを後にしてのどかな道を車で15分ほど行くと、平田観光農園の看板が見えてきた。木々の影が心地よく揺れている駐車場に車を止め、受付に向かう。
木と石でできた温かみのある建物に、各種フルーツが描かれた大きな暖簾がかかっている。黒板には一年中楽しめるという、くだもの狩りのスケジュールとパフェやジュースのメニューが並ぶ。
「今日は一日よろしくお願いします!」オーバーオールにネルシャツがよく似合う、スタッフの田邊さんが現れて受付をしてくれる。
「今日はまず、いちごアイス作り体験をしていただき、その後はダッチオーブンランチ。最後、いちご狩り体験を楽しんでいただき終了です!」学校とはまた違った時間割に、子供たちの顔が華やぐ。
「では、あちらの体験施設で少々お待ちください!」イチコト、という施設に案内される。一時のコトが、思い出になるように。という想いが込められているそうだ。少しすると「こんにちは、くだもの博士です!今日は液体窒素を使って、アイス作りをしてもらいます!」これぞ博士!といった格好をした白衣の博士が登場した。サービス精神に子供たちも笑っている。
アイス作りは、博士の講義から始まる。液体窒素にまつわる質問が出されると長女のユニが手をあげて次々と答えていく。次女のユライも積極的に知っていることを言葉にしていく。中止になってしまった授業参観が個別に行われているようで、成長が眩しい。
次は家族揃っての共同作業だ。いちごを切って潰していく。普段、味噌汁を作ってくれる長女のユニはなかなか慣れた手つき。ユライもやるじゃないか。それぞれ繊細なようで大胆だったり、大雑把なようで慎重だったり、子供たちというのは面白い。
-196℃液体窒素の登場は家族揃って声をあげて驚いて、スマホを構える暇もなかった。
いちご、牛乳、生クリーム、砂糖を混ぜたボウルに窒素を入れる。水蒸気が霧のように広がると…アイスができていた!
「大盛りにしよう!」「二段にしたい!」あたたかい日差しをくるんだ空気を胸いっぱいに吸い込んでから、みんなで作った冷たいアイスに目を細めた。
アルミ製のリヤカーに道具一式を乗せて、ダッチオーブンの森へと向かう。
「あるこう、あるこう、わたしは元気〜♪」姉妹二人でリヤカーを引く姿に、妻の口から歌がこぼれる。
スタッフに戻った田邊さんが現れ、一緒に森へと降りていく。ダッチオーブン用の専用窯の横に木のベンチとテーブル。手ぶらで本格アウトドア体験をできるのがありがたい。
「今日はダッチオーブンを使って、丸ごとローストチキンです!」丁寧な説明書と合わせて薪の割り方、火の起こし方を教えてしてくれる。「やってみたーい!」ナタをめり込ませた薪を、子供たちに渡す。いい運動だ。着火すると家族の盛り上がりにも火がついた。
「わぁ!」丸のままの鶏肉と食材が到着する。森のテーブルの上、向かい合わせで一緒に行うと野菜のカットも一大イベントだ。「わたしは食べる係ね」妻も安心して見守っている。
道具を揃えなくていいことはもちろん、火起こしをどこでやればいいのかなど、細かいハードルで二の足を踏んでいたキャンプ体験。友人家族と一緒だと、他のパパが格好良く見えちゃうし…。このような形でのデビューは、本当にベストと言っていいだろう。
話していたら、あっという間の30分だった。蓋を開くと湯気の香りとそのビジュアルに、二度目の歓声が湧いた。あめ色の焼き色がついたチキンとカラフルな野菜たち。テーブルの上に鍋を移し、切り分ける。パパの腕の見せ所だ。丸鶏はやったことがないが、魚の要領で…。細かいことは気にしない!
肉汁が滴る。それがさらに野菜に染み込む。木漏れ日のライティングが何倍にも映えさせる。美味しくない訳がない。レディーファースト。先に3人が頬張る。「〜!!」無言の大喝采。「またクリスマスも来よう!!」もう先のことで盛り上がる娘たち。嫌いだったニンジンもパクパクと食べている。鍋の中同様に、僕の心もホクホクと満たされた。
平田観光農園ではのんびり気軽に焚き火だけを楽しむプランもあります。農園の四季と共に移ろいゆく花と草木、きれいな空や爽やかな風を感じて焚き火を見ていると、いろいろな話をしたくなるかも。何も話さず、同じ炎を見つめあうだけでも気持ちが一つに!カフェメニューもありますが、持ち込み自由なので、ぜひアレンジを楽しんでみて!
https://marumero.com/fire
食事を終え森の中でゆっくりしたあとは、最高に贅沢なデザート、お待ちかねのいちご狩りだ。のんびりとビニールハウスに向かう途中「でこぼこ道でごめんなさい」と言う可愛らしい看板を見つける。この一年のことを思い出す。でこぼこどころじゃなかったけれど、家族無事で、いいことだって色々あった。
「いちごの匂いがする!!」ハウスに入るなり当たり前だけれど、家では気が付かないようなことを口に出す娘たち。
「種まで赤くて、ヘタが反っているものが美味しいいちごです。ヘタを下にしてひねってください。そのまま食べられます!」どれにしようかはしゃぐ娘たちを横目に、先にこっそり一粒。爽やかな酸味。ああ、昔ながらのいちごだ。
「あまーい!」「やわらかーい!」タレントのどんな食レポよりもグッとくる。それに釣られて一緒に食べる。目の前の、家族の笑顔がさらに甘さを感じさせる。
「13こ食べた!」「わたしは16こ!」楽しそうに競う娘たち。「ベランダでもいいから育ててみようかしらね」妻も満喫しているようだった。
「昔は、収穫体験を提供していない農家にいたんです。やっぱり、こうして育てたものを美味しそうに食べてくださる顔を、直接見られるのは嬉しいです」娘たちを見て田邊さんが言う。
自由に外に出られるようになって、友達と遊ぶようになったら一緒には来られなくなっちゃうだろうか?田邊さんの目をはばからず、娘たちを捕まえ、抱きしめたくなった。
田邊さんにお礼を告げて、今日の宿へと車を走らせる。帰りは娘二人が後部座席だ。最初ははしゃいでいたけれど、しばらくすると寝息が聞こえてきた。バックミラーで確認して一息つく。
「ありがとうね」妻が助手席で言う。今回の旅行のことだろうか?
「この一年さ。パパが家にいる時間が増えて、色々やってくれるようになって、気が付いたの」
つい、横を見そうになる。
「家族が元気で、笑顔で。一緒にできる食事こそが美味しくて。究極の贅沢だよね。世の中のことはどうにもできないけど、今までの選択は何一つ間違ってなかった。この人で、この子たちでよかったって思ってるよ。ありがとう」
ハンドルを握る手が汗ばむ。
今日は、ここ何年、何もしてなかった結婚記念日だ。もしかしてバレているのか?子供たちが寝たら乾杯しようと、広島三次ワイナリーでこっそり買ったトランクの中の貴腐ワイン。
焦る自分を横目に、妻がひとりごとのように続ける。
「無理に手を加えるのではなく、ブドウの良さを引き出す手助けをする、って、子育てもワイン作りと一緒よね」
そうだね。一粒一粒を味わうように、愛おしい一日一日を家族揃って楽しもう。そうしたら、思い出は熟成され、きっと最高の味わいになるだろう。
大丈夫。昼間の余韻は、これからもずっと続くよ。
※果物狩りの受付時間は基本16:00までですが、異なるコースもございますので、詳しくは予約サイトをご確認ください。
※いちご狩り、ダッチオーブンコース、一部のバーベキューコースは完全予約制です。
その他の果物狩り、バーベキューコースは当日予約なしでもご利用は可能ですが、事前にご予約していただくのをおススメしております。