着付け、お守り、
ディープ横丁。
「フォトジェニックな非日常」
自分も景色も、とにかく映える二人旅。
「フォトジェニックな非日常」
自分も景色も、とにかく映える二人旅。
今も広島で暮らす中学校時代の同級生からの返信だった。SNSのおかげで近況を知ることができるし、こうして連絡を取ることもできる。
中学校時代の思い出といえば、やっぱり修学旅行だろう。広島から出て、友達と一緒に初めての体験をたくさんした、色鮮やかな思い出。
今、大人になって修学旅行をするとしたら。離れてしまったけれど、大好きな街で。見過ごしていた、地元の良さを再発見してみたい。当時は体験できなかった思い出を作ってみたい!そう思い立って、同僚の写真好き、サクラに声をかけてみた。
「広島、行ってみたかったの!映えそうなところだらけだもんね!」あれもしたいこれもしたい、とSNSで調べては私におすすめをしてくれる頼もしい相棒だ。そうして私たちはカメラを携え、広島へと向かった。新幹線で広島駅に到着し、そこからJR山陽本線で30分ほど。JR宮島口駅に到着した。「駅舎のデザインって、大鳥居をイメージしているのかな?」サクラがスマートフォンをかざしながら言う。「確かに!駅舎や階段の入り口もだね」サクラに言われて初めて気がついた。
昔は気にもしなかったけれど、おもてなしの精神を随所に感じる街。もみじまんじゅう屋さんや、あなごめしのお店は当時と変わらない佇まいで並んでおり、醤油のタレや甘い香りが鼻をくすぐる。宮島ならではの名物たちだ。
広電宮島口駅や宮島口旅客ターミナルは、リニューアルされていて驚いた。フェリーに乗るため切符を買い、ゲートをくぐると一気に海の匂いが強くなった。乗り場にたくさんいる外国人観光客の方々が、以前より嬉しそうに見えるのは、旅そのものの喜びが強くなったからでもあるだろう。
乗船し、パノラマデッキに出る。キラキラと輝く海面から吹いてくる風が心地よい。改修工事を終えた大鳥居が見えてきた!「おかえり」といってくれているような気分になる。体に響く心地よいエンジン音は10分ほどで止まり、中学時代以来の宮島に着いた。
宮島桟橋に到着すると、鹿も「久しぶり!」と言ってくれているような気がして、挨拶がわりに二人でシャッターを押した。「あ、茶色い!」サクラが指をさした先には、いつの間にかできたコンビニがあった。
その横の道を進み、トンネルをくぐると閑静な住宅街に入っていく。桟橋から5分ほどで、今日一つ目の目的地に到着だ。
創建300年の禅寺「徳寿寺」をフルリノベーションした日本文化体験施設「okeikoJapan」。ここでは、着付けとオリジナルのお守り作り等の体験ができる。
「こんにちは…」引き戸を開け、和の雰囲気に満たされた入り口でご挨拶をすると、okeikoJapan代表の橋口さんが出迎えてくれた。「お待ちしておりました!こちらは、世界中から訪れる観光客の皆さまに、日本の伝統文化を体験していただく施設なんです。早速着付け体験に参りましょう」
靴を脱ぎ、二階へと上がっていく。襖を開けるとそこには、色とりどりの着物が用意されていた。
「わぁ!」思わず驚きの声が出て、スマートフォンを構えてしまう。
「着物は100種類以上あり、スタッフは全員着付けができるんです。8割が外国からのお客様ですが、紅葉と桜の時期には、日本のお客様も多いですよ」
どれにするか迷っていると、橋口さんが笑顔でアドバイスをくれた。
「基本的にはサイズではなく、好きな柄を選んでいただくのが良いですね。どれを選んでも、似合うようにしてみせますよ!」
迷いに迷った末に着物を決めた。私は好きな寒色をベースに、個性的な柄のものを。サクラは古典的なものにしたが、古典的になりすぎないよう、今っぽい色合いを感じるものを選んだ。スタッフの方のお話にリラックスしながら着付けが進み、30分ほど経っただろうか。再び鏡の前に立ってみて、驚いた。
「思った通りではなく、思った以上だ…!」
グランドスタッフの制服とはまた違った背筋の伸び方。和装の方が、笑顔も柔らかくなるように思う。こんな表情ができるんだ…ということに、二人してまた、笑い合う。
続いてはお守り作りだ。着物のまま、良い「気」に満ちている場に案内される。聞けば、「こちらはお寺の本堂なんです」とのことだった。
目の前にはたくさんの袋があってまた迷ってしまう。なんと、柄は常に500種類以上あり紐は19種類もあるとのことだ。しかもこれらは全て着られなくなった着物から作られており、1枚1枚解いたものをスタッフ全員で縫っているのだそうだ。
「和文化体験、というと日本人はあまりされないイメージですが、そんな日本人の方にこそ魅力が感じられるものをと思い、考えたんです」と橋口さんが教えてくださる。確かに。より良い暮らしへの祈りは、国籍年齢性別問わず、共通のものだろうから。
しゃもじ型のお札はすべて、ここの本堂でご祈祷されたものだ。そこに、願い事を書くのだが、スタンプも15種類用意されている。「どれにしようか?」「人の願いって、いっぱいあるよねえ」並んでいる願いごとの四文字を眺めていると、それだけで心に安らぎを感じた。
「心願成就」や「大願成就」といったオールマイティーなものが人気だそうで、願い多き私たちも、二人して「心願成就」を選んだ。
「心を込めてスタンプを押し、袋に穴を開けて紐を通す。世界に一つ、私だけのお守りができた!ご本尊にお供えし、願いを込めて手を合わせ、完成だ。
着物とお守りのおかげで、なんだか生まれ変わったような気分になった。
1時間前とは違う自分たちで、写真をたくさん撮りあおう!と1階に降りると受付に置いてある、可愛いチョコレートが目に止まった。
「珍しい!一つ一つに柄があるんですね。牡蠣、もみじ、しゃもじ、鹿…」橋口さんに尋ねてみると「実はこれ、全部宮島にまつわる柄で、なんと一つ一つ味が違うんですよ」と、チョコレートにまつわる物語を教えてくれた。
世界が未曾有の災禍に見舞われ「宮島には鹿しかいない」そんなことを言われていたその間。ただ待っていても仕方ない、と宮島の事業者さんたちに声をかけ、宮島の魅力を詰めこんだ新たな商品を!と作ったのがこのチョコレートなのだそうだ。
価値の切り取り方と、まとめ方。素敵な物語から生まれた体験を通じて、あるものの魅力を再発見して知ってもらう大切さを感じた。
「せっかくだし、着物で大鳥居まで行ってみよう!」観光客で溢れる参道を歩く。着物と下駄のおかげで、歩幅は自ずと狭くなり、歩き方も上品になる。「一人一人にいろんな願い事があるんだろうね」ここにいる人たち全員にとって、世界の平和は、共通の願いであると信じたい。
「珍しさのせいもあるのだろう。道中、外国人の方々から話しかけられたり、写真を一緒に!とお願いされたりした。何だか普段歩く観光地の道とは全く別のものに感じられた。
「そうして大鳥居へ到着!干潮と満潮、昼と夜。その時々で魅せる姿で、世界中の人を惹きつける広島の象徴。あやかれるように、と一緒に写真を撮った。
徳寿寺に戻り、まだまだ着ていたい気持ちを抱えながら、着替えを終えた。普段着に戻り、見た目としては魔法が解けたように思えるがそんなことはない。上品に、しとやかに、心は背筋を伸ばしたままだ。
橋口さんにお礼をお伝えし、okeikoJapanを後にした。
「お腹すいた!」「ランチはね、とても素敵な場所を見つけてあるよ」
徳寿寺を出て、町家通りを歩く。魚屋さんや八百屋さんといった昔からの商店と、クラフトビールや邸宅イタリアンが絶妙なバランスで共存しているように感じられる。どこも暖簾や行灯を掲げており、観光客向けの参道からすると、ここだけ時が止まっているかのようだ。
ついた!店先の行灯には「ぎゃらりぃ宮郷」とある。ここは、しゃもじ問屋の古民家をリノベーションしたギャラリーカフェ。今日はこちらで、名物のパキスタンカレーをいただくのだ。
引き戸をあけ中に入ると、新築の建物にない趣に包まれた。土壁と、再利用された建具。そして、ところどころに問屋時代の名残を残したしゃもじのモチーフ。右手のギャラリーでは海外のアーティストの方が個展を開いていた。
「いらっしゃいませ」上品なお母さまが、レモンの入ったお水を差し出してくださった。聞けば、しゃもじ問屋を営んでいた先代、亡くなったお父さまと一緒に始めたお店だそうだ。
現役の柱時計がぼんぼんと時を告げると、注文したパキスタンカレーが出てきた。中庭からの光がさらに美味しそうな雰囲気を演出していたので、まずはカメラで味わってから、実際にいただくことにした。「いただきます!」鶏肉と野菜とたくさんのスパイスをオリーブオイルでじっくり煮込み、水を使わず塩のみで味付けた逸品を、一口ずつよく噛んで堪能する。辛みは少なく、コクと深みにあふれた、素朴で奥行きある味わい。うん、写りも味も、素晴らしい。
息子さんに当たる2代目のご主人は、お店を継ぐために宮島に戻ってきたという。食事メニューがなかったので、会社員時代、好きだったカレーを再現できないか、と作ったのがこのカレーだそうだ。
「こんなものも作っているんですよ」見せてくださったのはA4サイズの新聞で「宮島町家通り通信」とある。年4回発行されているそうで、四コマ漫画の作者は、なんと奥さんであるらしい!
食後には、アールグレイが香るお母さん手作りのシフォンケーキをいただく。「公民館で習ったこれしか作れなかったのよ」と笑っていらした。上品な紅茶の香りと、都度ホイップされるというクリーム。お母さんのように、素朴で上品な味がした。
ぎゃらりぃ宮郷を出て、広島市内へと戻る。「着物でゆっくり宮島を堪能したからね。帰りはスピードアップして帰ろうか」行きは電車を楽しんだから、帰りは水上からの風景を楽しもう。
宮島から広島市内へは、「ひろしま世界遺産航路」の高速船に乗ることにした。平和記念公園と宮島、世界遺産に登録されている広島の2大観光スポットを結ぶ定期船。そのスピードはもちろん、市街地や原爆ドームを水上から眺められるのも大きな魅力だ。
先ほど乗ったフェリーとは全く違うスピードで、白い波を曳きながら水上の牡蠣筏を追い越していく。遠くには工場地帯が見える。たくさんの魅力と、たくさんの歴史がある街。
海から川へ入ると減速し、街をゆっくりと眺めることができる。水上から見る街は、なぜだか懐かしさを感じた。違った視点から広島の魅力を味わっていたら、原爆ドームが見えてきた。
到着した場所は、元安橋のたもとだった。原子爆弾の爆心地から約130メートルだったというこの橋は、今では、川辺の平和な風景を見守ってくれている。!
「喉乾いたね!」高速船を降りてすぐの場所にあるのが、本格イタリアンが味わえる店「カフェ ポンテ」だ。店頭には箱に入ったオレンジが山積みになっている。!
「氷なしで味わう正真正銘の100%、オレンジそのものだよ!」皮をむいて冷やしたオレンジを、そのままジューサーで搾ったオレンジジュースをいただく。昼間の心地よい疲れを一気に吹き飛ばしてくれた。!
さあ、次は夜の部だ。夜の広島の魅力を巡る、ディープなツアーのスタート地点へと向かおう!
2023年の春にできたばかりのひろしまゲートパークに到着。
「こんなに変わったんだ…!」サクラにとっては単なる新しくキレイな公園でも、私にとっては思い出を塗り替える変化だ。1957年、広島の復興のシンボルとして作られた球場は今、賑わいの市民公園となったのだ。
その中の商業施設、シミントひろしまの「LUCKY BAKERY」へ向かう。本日最後のお楽しみ「ヨバシリ」のスタート地点に指定された場所だ。
平和な場の空気に身を委ねていると、ベーカリー前にガイドの石飛(いしとび)さんが現れた。「あ、こんにちは!」「こんにちは、ガイドの石飛です。トビーと呼んでください!」
トビーさんはガイドブックに載ってない旅をテーマにしたサイクリングツアー「sokoiko!(ソコイコ)」の運営をしている方だ。「今日はこの電動キックボードで広島の街を楽しんでもらいたいと思います!」
ヨバシリは、この電動キックボードに乗って広島の夜を巡るナイトツアーだ。写真映えするスポットはもちろん、地元ガイドさんだから知っている、ディープなポイントも案内してくれると知り、申し込んだ。
「まずは、最初のおすすめスポット、LUCKY BAKERYでパンを買いましょう!」「お腹が減っては『ヨバシリ』できないもんね!」と顔を見合わせベーカリーへ。店内は人で賑わい、夕方にもかかわらず焼きたてのパンの匂いがした。
「ここはね、広島で6店舗展開している地元で人気のベーカリーで、地元の食材にこだわってパンを作ってるんですよ!」店内に入ると、うん!なんだかすごく「LUCKY」な空気に満ち満ちているのを感じた。パンだけでなく、ドリンクやジャム、はちみつなども取り扱っている。
「いらっしゃいませ!」マスク越しでも感じるくらい、笑顔溢れる対応をしてくださったのは店長の野島さんだ。その横で、店名の由来をトビーさんが教えてくれた。「広島の人に支えられてお店を続けてこられたことがラッキーだよね、愛されていることに感謝したい!というラッキーと、みなさんにも『美味しいパンを食べられて今日はラッキーだよね!』と感じて欲しくてLUCKY BAKERYなんですよね!」野島さんが頷く。
サクラは焼きたての「バニラのマフィン」を。そして私は同じく焼きたての「塩バターフランスパン」を買った。準備は万端だ。なんてラッキーな、幸先の良いスタートだろう!
軽く練習をしてから出発するということで、トビーさんからイヤホン型のトランシーバーを受け取り、装着する。「夕日がほんまにきれいじゃね!」トビーさんの軽快な広島弁が聞こえる。
ヘルメットを被り、操作を教わる。速度を設定し、親指のレバーを動かすだけでグン、と前に進む。「動いた!」電動なのでスムーズで、頬を切る風が爽快だ。
「地元で育ってきた僕が、ここめっちゃ好きだわ!ってところを紹介するのが今日のツアーです。思春期の頃って、夜に外出するのってドキドキしてたじゃないですか。あのドキドキを、ローカルのいろんなところを巡りながら味わってもらえたらと思ってます!その前に」
と、立ち止まり、お椀型の建物を指差し、振り返って、原爆ドームの方を向いて、スマートフォンでマップを見せてくれた。
「ここの平和記念公園から真っ直ぐ続く道、これを『平和の軸線』といいます」
お椀型の建物は広島グリーンアリーナだ。平和記念公園の原爆慰霊碑から原爆ドームを結ぶ「平和の軸線」。その南北に伸びる線上の遊歩道に今、私たちはいる。
「ここから真っ直ぐに、平和を未来へ繋いでいきましょう、って意味があるんですよ」と、トビーさんは静かに優しい口調で教えてくれた。ツアーの出発点にも、大切な思いがあることを知る。
「そんな場所から川沿いを走って、太田川の河川敷へ向かいましょう。そのあとは横川っていうローカルな街並みを通って、最後はライトアップされた広島城を見に行きましょう。大体2時間くらいですかね。では、出発しましょう!」平和と、そして安全を願って3人でガッツポーズをして出発した。
「風が気持ちいいでしょう?」
川沿いの公道を走り出すと、トビーさんの声が風の生音と一緒にイヤホンから聞こえてきた。現在建設中のサッカースタジアムのこと、この辺りにお寺が多い理由、広島市内にある、驚くほどの橋の数…未来と過去の話。その間の今日を走る私たち。空が鮮やかに色づいてきたころ、太田川に到着。電動キックボードを止めて、河川敷に腰をかけた。
「広島には川がたくさんあって、地元の人にとってどこも憩いの場になってるんだけど、川ってさ、将来のことや恋愛のこと、語ったりするじゃない?」はにかむトビーさん。ここは、トビーさんの一番おすすめの夕焼けスポットだそうだ。
夕焼け空をバックに、家路に帰る人たちを乗せた電車が走る。その明かりがとても愛おしく感じられて、カメラを向けた。
LUCKY BAKERYで買ったパンをみんなで食べて、青春時代の放課後のような話をしていると、あっという間に日が暮れた。「河川敷の夕暮れを堪能したところで、次はディープなナイトスポット、横川へ向かいましょう!」
慣れてきた電動キックボードの電源を入れて再び走り出し、サブカルチャーと歴史が混在し、広島市内でも独特な雰囲気を持つ横川商店街へ移動する。「路地がめちゃくちゃあって、夜だけ開く本屋やメジャーな作品はまずやらない映画館とかあるので、お楽しみに!」
少し走ると、明るい場所が見えてきた。人の賑わいが感じられる。
「ここが横川駅ですね!」駅前を大きく横切り、小道に入っていく。「あ、いい匂い!」サクラの声が聞こえると、飲食店の看板が目につき、人を惹きつける夜の香りが漂ってきた。
横川シネマの前で止まる。看板のフォントからして、もう大好きな感じだ。「ここがさっき話していた映画館、横川シネマですね。アートで横川を盛り上げようと地元の人たちが頑張っていて、この大きなウォールアートもその一環ですね」地元のアーティストが書いたという壁画が私たちを出迎えてくれた。
暗い小路を抜け、飲食店がひしめき合う通りへ。電動キックボードを押して歩いていくと、国旗のようなものが目に入った。「これ、なんですか…?」「外から来た人との交流を楽しもう!横川はもう独立した国だ!ってことで『横川カンパイ王国』っていうのをやっているんです」面白くって、旗と商店街にカメラを向けた。
「ハロウィンも有名でね。町中、ゾンビになるイベントなんかを渋谷が盛り上がる前からやってます。来場者が感染していくんですよ。ゾンビナイト!」楽しそうに笑いながらトビーさんがガイドしてくれる。案内中も、トビーさんは街の方と頻繁に挨拶を交わしていた。至る所に人の温もりを感じる横川は、どこを切り取っても絵になる場所だった。
ディープな横川のなかでもひときわカルチャーを発信しているのが本と自由。カフェに併設された書店で、古本や広島にゆかりのある本などを揃えています。路地裏にあり雰囲気満点、お酒を呑みながら、音楽を聴きながら、本と一緒に自由な時間を。
〒733-0011 広島市西区横川町3丁目4-14
「では、最後に広島城に向かいましょう!」
飲食街の明かりを後に、住宅の明かりを眺めながらまた川を渡っていく。「広島の人間は、スタート地点あたりの中心部の街へ行くことを『まちる』って言うんですよ。デートとか遊びで」イヤホンからトビーさんの声が聞こえて行きた。「さあ、『まちり』ましょう!」スピードを少し上げると、風の音も強くなった。
広島城に到着する。「わー、きれい!」サクラが興奮している。夜だからこその表情。ライトアップされたお城がお堀に映りこみ、絵ハガキのような幻想的な風景が目の前に広がっていた。
夜風と風景を味わったり、写真を撮ったり。一通り楽しんだところで、トビーさんが中学生男子の告白のように、ポツポツと話し始めた。
「スタート地点の一本道、覚えてますか?」
平和の軸線だ。
「あそこからスタートして、太田川の河川敷を走る電車、横川のお店、そして住宅街を通って、広島城の明かりを見てもらって。夜の街を走ってもらうと見える、一つ一つの光があるじゃないですか」
トビーさんの話を聞いて、走ってきた風景が流れるように思い出された。
「平和だからこそ、一つ一つの光の中にそれぞれの生活があって。光が一切なかった状態から今はこんなに輝く街になったんだ、ってことを見てもらってね。自分もそのうちの一つの光なんだってことを知って、この広島を楽しんでもらえたらなって思って、このツアーを始めたんです」
光。物理的な光だけでなく、未来を照らす素敵なものが、ここ広島にはたくさんあることを再発見した一日だった。角度や視点によって、違った輝きを放つものばかりだった。
隣を見ると、サクラの笑顔が輝いていた。私も一つの光として、身近な世界から照らせる存在でありたい。そう思って、まずはサクラの笑顔を広島城と一緒にカメラに収めた。
※要運転免許証(原付免許可)