瀬戸内のヴィラで、
SUPとサイクリングとBBQ
「潮風に背中を押される非日常」
島の魅力を全身で感じる女性2人旅。
「潮風に背中を押される非日常」
島の魅力を全身で感じる女性2人旅。
「よかったぞ、広島。俺の華やかなBBQデビューに、娘たちからのいいね!もたくさんもらえた、はず…」師匠が、機材を片付けながら笑う。専門学校を卒業してから10年。このスタジオでたくさんのことを学び、たくさんの笑顔に触れてきた。自分にとって最高に居心地の良い場所。不満なんて何一つないけれど、ここから旅立つことを決めた。
筋の通し方は、何より大事に教わったことだ。だから、お世話になった人たちにはなるべく早くに挨拶をした。近所のカフェのスタッフ、ケイカちゃんもその一人だ。スタジオによくコーヒーを運んできてもらっていたし、一人で考え込むときはお店に長居もした。
「アユミさん!カッコいい!!」独立することを伝えに行った際の第一声はこれだった。「卒業旅行、しませんか?」続け様に言うケイカちゃん。閉店後のお店で聞いていた彼女の夢も、もっと深く聞いてみたいと思っていた。「分かった!ちょっとプラン立ててみるね」
ゆくゆくは彼氏とカフェをやりたい。そんな彼女の未来への道も、より鮮やかに見えるような旅がいい。彼氏さんの地元同様、海がある場所がいいだろう。なるべく人がいなくて、自然豊かなのんびりした所で、彼女に写真でお礼を…。
ここにしよう!師匠のBBQの話もあって、広島の大芝島という、小さな島に行くことを決めた。
「今回の旅行はね…、モンサンミッシェルへ行くよ!」「新幹線って、フランスまで行くんですか(笑)?」今はワクワクする気持ちだけ持たせておこう。そう思い「海に入れる準備だけ」と言って、細かい旅程は伝えなかった。
広島に到着後、駅から車で1時間ちょっと。助手席のケイカちゃんと他愛もないおしゃべりをしていたら、優雅な瀬戸内海が見えてきた。大芝島のある東広島市安芸津町は牡蠣の名産地でもあるらしく、海には養殖の筏が優雅に浮かんでいた。そして目の前に目的地の大芝島へと架かる大芝大橋が現れた。全長470m、「斜張橋(しゃちょうきょう)」というらしい。橋の上から真っ直ぐに伸びているケーブルが、非日常へと誘う矢印のようだった。
彼女と2人で“島じかん”を丸ごと味わうのが今回の旅のテーマだ。 年上としての役回りなりに、また、先に独立するなりに。おせっかいかもしれないけれど彼女を応援するような旅にしたかった。だから、海辺の素敵なヴィラとカフェを堪能するプランにした。
大芝大橋から穏やかな海を見て島に渡る。ゆっくりと海沿いの道を行く。「一本道だから、迷わなくていいですね」当たり前のことでも、ケイカちゃんがいうとなんだか可笑しい。地元の人たちが釣りをしている。無人販売のみかんが景色に色を添える。早くも、ゆっくりとした島の時間に触れた気がした。島全体の色合いが優しく感じられるのは、コンビニや自販機が一切ないからかもしれない。程なく最初の目的地「大芝島のモンサンミッシェル邸」に到着した。
今日の一つ目のメニューであるSUP(サップ)のボードが立てかけられている。古民家の1階部分が白いペンキで塗られている。シルバーのアルミのトタンとデッキパラソルが眩い。レゲエの音楽に合わせ、赤いハイビスカスがそよいでいる。そこから「大芝島のモンサンミッシェル」と呼ばれる小島が見える。「可愛いサイズのモンサンミッシェルですね!」本物見たことないですけど、と付け加えてケイカちゃんが笑う。笑顔を照らす日差し、そして波が穏やかだからだろうか。今まで行ったどこの島とも似ていない心地よさがあった。
「こんにちは!今日はよろしくお願いします!」
SUPの先生である横田さんが現れる。程よく日焼けした笑顔が、安心感を与えてくれる。広島県呉市出身。海と動物が大好き。プールのコーチ、ヨガのインストラクター、歯科衛生士など、さまざまな資格を持ちながら島とのご縁があって、こちらでSUPの先生をしているのだそうだ。
SUPとは、StandUp(立つ)Paddleboard(漕ぐ+ボード)の頭文字をとったもの。立った状態で漕ぐ(パドリング)という意味があるので、今の私には、いや、私たちにはぴったりだと思った。はじめはなかなか立つことが難しいらしいが、少しずつできるようになる達成感も味わえる、ということも。
早速着替えて、まずは陸でパドルの扱い方などを教わる。「焦らなくても大丈夫!落ちついてやってくださいね」「自分の重心は、自分じゃないとわからないですからね」“自然を通して生きやすい人生の選択をサポートしている”という横田さん。その一言一言が、人生に通じる教えに思えてくる。続いて準備運動。両手でパドル握って体を反って伸ばし、空を見上げる。深呼吸をすると、島の空気が私たちを歓迎しているように感じられた。
心の準備はまだだったが、海へ出る。横田さんが先に、水面を滑るようにスイーっとボードに。同じように上手くはいかないが、覚悟を決めて勢いで後に続く。「実はペーパードライバーなんですけど!」と冗談まじりに車の運転に例えながら横田さんが進み方、方向の変え方を上手に教えてくれるが、思うようにボードが言うことを聞いてくれない。
「落ちたらどうしよう!」うまくターンができず焦るケイカちゃん。「瀬戸内海は大きな愛で受け止めてくれますよ!」と横田さん。ああ、確かに。落っこちてもいいなあ、なんて思えるくらいの余裕が出てきた頃には、体で反応できるようになっていた。
心の準備はまだだったが、海へ出る。横田さんが先に、水面を滑るようにスイーっとボードに。同じように上手くはいかないが、覚悟を決めて勢いで後に続く。「実はペーパードライバーなんですけど!」と冗談まじりに車の運転に例えながら横田さんが進み方、方向の変え方を上手に教えてくれるが、思うようにボードが言うことを聞いてくれない。
「落ちたらどうしよう!」うまくターンができず焦るケイカちゃん。「瀬戸内海は大きな愛で受け止めてくれますよ!」と横田さん。ああ、確かに。落っこちてもいいなあ、なんて思えるくらいの余裕が出てきた頃には、体で反応できるようになっていた。
20分くらい経っただろうか。やるしかない!と勇気を振りしぼり思い立ち上がった。視野が変わり視界が開け、浮遊感が足元を心地よく支えた。不安は、いつの間にか楽しさに変わっていた。人生と一緒だ。行きたい方向へ、自分で漕いで行けますね…!そう伝えるかのように、横田さんに向かって私は両手でパドルを掲げた。
さらに沖へと向かう。通ってきた大芝大橋を見にいく。車の窓を開けて通過した時とは違う、穏やかな爽快感。横田さんの教えのもと、ボードに寝そべって、海に足を浸して空を見上げる。天然のハンモックと言ったらいいのかな…。頭は空と、足は海と、一つに繋がっているような感覚になる。「海の上でないと、話せない話があるんですよ。だから私は、SUPカウンセリングって呼んでます」確かに、瀬戸内海と横田さんの愛に包まれたら、何でも話してしまいそうだった。
「SUP、趣味になっちゃいました!」最初あんなに怖がっていたケイカちゃんは、陸へ戻るなり興奮しながら横田さんへと駆け寄った。楽しい時はあっという間、お礼とお別れを告げる時間だ。「一つ一つのご縁を大切にしてきたんです。こうして出会えたこともご縁ですね!」再会を誓って手を振る横田さんの言葉に、私たち2人が出会えたこと、そして独立を決めたからこの島に来られたこと。すべて縁に感謝が溢れ、これから待つであろうたくさんの出会いが楽しみになった。
シャワーを浴びて服に着替える。さっぱりはしたけれど、潮をまとっている感じが心地よい。カラフルなテーブルの上に、木目がかわいい立派なお弁当箱が用意されている。地元の鮮魚店さんが作ってくれた特製の「潮風弁当」だ。
新鮮な鯛のお刺身、小魚の南蛮漬け、野菜のコロッケ、ちらし寿司、胡麻豆腐、きんぴら…11個のマス一つ一つが彩りよく並ぶお弁当はおもちゃ箱のようで、私たちは子供のようにはしゃいだ。
「島の鮮魚店さんが作ってくれた特製のお弁当です。ちなみにこのお弁当箱も特製でね。今では新しいメニューまで提案してくれるんです。油淋鶏ならぬ、地元の鯛で作った油淋鯛とか!ありがたいです」移住してきて8年。もともとマリンスポーツやスノーボードが好きでみんなに来てもらえる遊び場を作った、というオーナーがお弁当の説明をしてくれた。オーナーのあそび心が、穏やかな波のように島に広がっていっているんだな…。思いの詰まったモンサンミシェル邸で、島の恵みがたくさん詰まったやさしい味のお弁当を、潮風とともに味わった。
お腹もいっぱいになって少し経ったところで、次はサイクリングだ。外周をゆっくり回っても、45分〜1時間の島。食後にもちょうどいいだろう。レンタルした自転車をこぎ出す。目的地はあるけれど、ゆっくりがよく似合う。虫や鳥の鳴き声をBGMに、平坦な道でも潮風とふくよかな緑の香りを感じられた。
島のおばあちゃんが笑顔で手を振ってくれていた。ワンちゃんを見た途端、家で犬を飼っているケイカちゃんがスピードを上げ近づく。自転車を止めて、ごあいさつ。すると、あれ?奥に行ってしまった。どうしたのかな…と思ったらビワを持ってきてくれた。この島が、品質の良さで全国的に有名な安芸津ビワの栽培地あることや、ワンちゃんのことなど色々お話を聞かせてくれた。日差しのように穏やかで温かいふれあいも、この島ならでは魅力だろう。
「さあ。おっきなハート、見にいこう」おばあちゃんに手を振って、再びペダルに足をかける。「ハート、ですか?」「うん、ハート島!」それは、潮が引いたタイミングで見たときにだけハート型に見えるという無人島「小芝島」の別名だ。調べてみると周囲を縁取るように砂浜が現れて、緑に覆われたハートが海に映えるらしい。 私は時計を眺める。時間としてはそろそろいいはず…ギア付きではあるけれど、少し息を弾ませながら坂を登る。ちょうどいいタイミング!!
「今、だったね…!」
眼下の海に、大きなハートが浮かんでいる。下の部分が普通のハートより少し「シュッ」と伸びていてかわいい。
私たちも、今だったんだね。今のタイミングでここに来た2人に、空からいいね!の大きなハートマークを押してもらったように思えた。
JA芸南農産物直売所「ふれあい市」では、地元でとれた新鮮な農産物を、生産者自ら毎日お届しています。特産の「じゃがいも」や「かんきつ類」「花」「民芸品」「惣菜」「肉類」「魚介類」「地酒」まで商品アイテムは多彩!地元ならではの触れ合いをぜひ楽しんでみては。
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=806
ハート島を眺めたら、そろそろチェックインの時間だ。自転車でなだらかな坂を下り、また海辺に戻ってくる。「今日はここに泊まるの!」優しい色彩の海辺に、ひときわビビッドな壁が眩しい。今日の宿「瀬戸内ヴィラ ダイアリー大芝島」だ。
「アユミさん!!こんなヴィラとカフェが憧れなんです!!」「いいでしょ〜!?」ヴィラはもともと「贅沢な上流階級のカントリー・ハウス」とあるけれど、現代では特定の種類の一戸建ての郊外住宅を指すという。いずれにしても、ケイカちゃんが喜んでいることは間違いない。
2019年オープンで、目の前には瀬戸内の大パノラマ。夜は満点の星空を楽しめるという。中へ入る。並ぶ大きな窓から見える海がキラキラと輝いている。白をベースとした室内はそのまま海外の映画に出てきそうで、照明や家具の一つ一つに柔らかなこだわりを感じた。なんと、バスルームまでガラス張りで大崎上島が見え、霞んでいなければ四国の方まで見通せることもあるという。
窓を開けて潮風を取り込むと、植えられたローズマリーがほのかに香った。「彼はもっと都会的で無機質なイメージが好みなんですけど、こんな優しい感じもいいよね、って提案してみます!」いろんな角度から、スマートフォンでクリップをしていく。
「のども渇いたし、お茶にしよ?」さっきのモンサンミッシェル邸と同様のカラフルなチェアとテーブル、白いパラソルに誘われて併設のカフェダイアリーに移動し、オレンジジュースを注文する。オレンジのパキッとした色合いが背景の海によく映える。爽やかな酸味が、サイクリング後の一息にはピッタリだ。
「ケイカちゃん、写真撮ってあげる」カメラを取り出し、ファインダーを覗く。カラフルな未来を想像する横顔を見て、つくづく可愛いなあって思いながらシャッターを切る。ケイカちゃんは気がついてないかもしれないけれど、私は彼女の明るさにいつも救われていて、たくさんお世話になってたんだ。だから、これは私なりの恩返しだ。
いつか彼女がこんな素敵なカフェを作ったら、たくさんの人がこの笑顔を見に訪れてくれたらいいな。その頃には、きっともっと素敵な笑顔になっているだろう。だからその始まりを、カメラマンとしての始まりに残しておきたかった。「ケイカちゃん、ありがとね」色々なことを思い出しながら切ったシャッター音と一緒に、一言、感謝を伝えた。
話は尽きず、話した分だけお腹は減る。夕日の綺麗なタイミングで、島の反対側にあるレンタルコテージ「Y51」に移動して、夜はBBQをすることにしていた。
アシスタント時代に鍛え上げた段取りで仕切っても良かったけれど、いい機会なので今回はケイカちゃんにやってもらうことにした。「私、ホールスタッフだし食べる専門なので…」「手伝うからさ、やってみようよ」彼氏と二人でやるなら、なおさら料理もできた方がいい。
暮れていく陽が海に反射している。海に向いたジャクジー、その横のベンチに座っている未来の私たちをイメージする。大丈夫。きっと今よりもっと笑ってるはずだ。元から生えている木を活かしたウッドデッキに戻ってBBQを始める。ケイカちゃんのサポートをしながら。
潮風の香りと炭の香り。人間本来の生活に近いからだろうか?とにかく1日中、潮風と自然の混じりあった香りが、私たちを心地よく包んでくれていた。
潮風の香りと炭の香り。人間本来の生活に近いからだろうか?とにかく1日中、潮風と自然の混じりあった香りが、私たちを心地よく包んでくれていた。
テーブルセッティングや盛り付けは彼女が担当してくれた。やるじゃない。いいセンスだ。準備が整ったところでグラスを片手に立ち上がり、ウッドデッキから夕日に向かって乾杯する。瀬戸内海を照らす光に、グラスの泡も輝いている。きっと私たちの笑顔も。
世界がこの先どうあっても、きっと私たちは私たちのやり方で、行きたい方向へ行ける。浮くように自由に、ゆっくりと、心地よいスピードで。
飲んで、食べて、笑って。互いの笑顔が、素朴な味付けの BBQ の味を際立たせた。いつの間にか、未来の彼女のお店にいるような気持ちになっていた。
ヴィラに戻ってまだまだ語ろう。これまでと、これからのこと。星と海を見ながら、ね。
地元で愛されている老舗の酒蔵、柄(つか)酒造株式会社。創業以来170年、「手作り」「広島の米」「広島の水」にこだわり、地元で愛飲されるお酒を醸し続けています。地元以外ではなかなか楽しむことの出来ないお酒を蔵元直送で!仕込み時期(秋~春)を除けば、事前予約で酒蔵見学もできますので、ぜひ一度お問い合わせください!
https://www.tsukasyuzou.jp/