酒肴と至高の観光船
「酒と海に酔う非日常」
瀬戸内海で五感を満たす二人旅。
「酒と海に酔う非日常」
瀬戸内海で五感を満たす二人旅。
近所の雑貨店のオーナーがスマートフォンで写真を見せてくれる。小さな画面からでも伝わる、圧倒的な迫力だ。
「なるほど〜呉ね。広島、ね」。大きめの仕事の案件が来月には終わる。自分へのごほうびではないけれど、どこか旅行に行きたいと思った。家族と一緒もいいのだけれど…。パッと思いついたのは、定例飲み会をしているセイラの顔だった。
「広島、どうかしら。日本三大酒どころ『西条』の他にも海の酒、山の酒、里の酒がそれぞれあって、味わいの幅が広い、と言われている場所よ。合わせるのは、瀬戸内海の海の幸」。仕事で1日中モニターに向かっているので、作業の合間、調べ物はすぐにできる。そろそろ焼き菓子屋さんの片付けも終わる時間だろう。セイラが乗ってきそうな画像をいくつか選び、メッセージアプリで送ると、即座に浮かれたスタンプが返ってきた。
「人生の舵をとる」なんて良く言ったものだ。私はウェブデザイナー。セイラは焼き菓子屋さん。お互い、自由がきく働き方をしている。もちろん家族の理解があってのことだし大変なことも多いけれど、舵をとっているという実感は、ある。
よし、広島のお酒と海の幸に加え、「船」をテーマにプランニングしてみよう。リサーチをして計画した先は、お城とたことお祭りと、だるまが四大名物といわれる三原市だった。
「ついたね!」。山陽新幹線こだまで、博多からも新大阪からも、だいたい2時間の三原に到着した。「どうして三原に?」。ノリよく着いてきてくれるのが役割のセイラ。「新幹線は止まるし、海の幸をタコだけで推してるって潔いし、何より、『市内までおもしろい移動手段で行ける』っていう点でね」。プランを立て、プレゼンテーションをするのは私の役割だ。
「わ!これ、お城の石垣…!?」。JR三原駅は、三原城本丸跡を横切るように、石垣の縁の上をまたいで建てられている。観光名所まで「駅徒歩0分」が売りの珍しい駅だ。ホームから階段を降りていくと、名物の一つ「三原だるま」に歓迎される。よく見るだるまと、ちょっとだけフォルムが違う。
「なになに、「願いが成るように」と、鳴り物の鈴や小石を入れ、頭が細長く、豆絞りの鉢巻をしているのが特徴です…」。好奇心旺盛なセイラが説明を音読する。「へ〜、家族の安全と、繁栄を祈った、という言い伝えがあるんだって!」。旅の始まり。改めて家族に感謝を表すべく、手を合わせた。
「ついたね!」。山陽新幹線こだまで、博多からも新大阪からも、だいたい2時間の三原に到着した。「どうして三原に?」。ノリよく着いてきてくれるのが役割のセイラ。「新幹線は止まるし、海の幸をタコだけで推してるって潔いし、何より、『市内までおもしろい移動手段で行ける』っていう点でね」。プランを立て、プレゼンテーションをするのは私の役割だ。
「わ!これ、お城の石垣…!?」。JR三原駅は、三原城本丸跡を横切るように、石垣の縁の上をまたいで建てられている。観光名所まで「駅徒歩0分」が売りの珍しい駅だ。ホームから階段を降りていくと、名物の一つ「三原だるま」に歓迎される。よく見るだるまと、ちょっとだけフォルムが違う。
「なになに、「願いが成るように」と、鳴り物の鈴や小石を入れ、頭が細長く、豆絞りの鉢巻をしているのが特徴です…」。好奇心旺盛なセイラが説明を音読する。「へ〜、家族の安全と、繁栄を祈った、という言い伝えがあるんだって!」。旅の始まり。改めて家族に感謝を表すべく、手を合わせた。
北口側、構内から天主台跡が直結した階段を登ると静かな庭園が広がっていた。お城が建てられる場所だけあって、いい気が流れているように感じた。毛利元就の三男・小早川隆景によって築かれた城郭兼軍港としての機能をそなえた名城であること。満潮時には海に浮かんでいるように見えたことから、浮城(うきしろ)と呼ばれていたことを、ゆっくり歩きながらセイラにガイドした。広く開けた空が、旅への期待を高めてくれた。
三原城本丸跡を満喫し南口に出ると、噴水と「やっさ祭り」のモニュメントがあった。そう、三原はお祭りでも有名な土地だ。他にも、日本一の大ダルマが見どころの三原神明市(しんめいいち)や、県内唯一のはだか祭りなど、たくさんのお祭りがあるらしい。
「ではさっそく、三原名物を食べに行こう!」。事前に伝えてはいたけれど、来てみて驚いた。「たこの町」の表記に加え、いたるところにたこを見つけることができる。
マリンロードを進んでいくと、大きな船のスクリューが見えた。はしゃぐセイラに、ここ三原港は後のお楽しみであることを伝え、道路を渡り路地を入る。駅から徒歩7分ほどで、お目当ての「登喜将(ときしょう)」に到着した。
「今日はお昼から…会席です!」。食事が来るまでの間、たこについてのリサーチを報告する。三原の海は、瀬戸内でも有数のマダコの産地で、江戸時代からたこ漁が盛んだったこと。エビ、カニ、シャコ、魚といった高級食材を好んでエサにする美食家であること。岩場の多い三原の海にはエサがたくさん集まってくるので育ちがよく、肉厚で旨みが濃いということ。すると、もう待ちきれない!というリアクションを見せてくれた。リサーチしがいのある友だ。
三原城本丸跡を満喫し南口に出ると、噴水と「やっさ祭り」のモニュメントがあった。そう、三原はお祭りでも有名な土地だ。他にも、日本一の大ダルマが見どころの三原神明市(しんめいいち)や、県内唯一のはだか祭りなど、たくさんのお祭りがあるらしい。 「ではさっそく、三原名物を食べに行こう!」。事前に伝えてはいたけれど、来てみて驚いた。「たこの町」の表記に加え、いたるところにたこを見つけることができる。
マリンロードを進んでいくと、大きな船のスクリューが見えた。はしゃぐセイラに、ここ三原港は後のお楽しみであることを伝え、道路を渡り路地を入る。駅から徒歩7分ほどで、お目当ての「登喜将(ときしょう)」に到着した。
「今日はお昼から…会席です!」。食事が来るまでの間、たこについてのリサーチを報告する。三原の海は、瀬戸内でも有数のマダコの産地で、江戸時代からたこ漁が盛んだったこと。エビ、カニ、シャコ、魚といった高級食材を好んでエサにする美食家であること。岩場の多い三原の海にはエサがたくさん集まってくるので育ちがよく、肉厚で旨みが濃いということ。すると、もう待ちきれない!というリアクションを見せてくれた。リサーチしがいのある友だ。
「せっかくだし、お昼から飲んじゃおうね」。せっかくだし、は旅を豊かにする免罪符だ。その土地のものをいただくには、その土地のお酒が一番ということで、地元の銘酒「醉心」の純米生原酒をいただくことにした。
お酒と一緒にたこ会席が到着した。たこのやわらか煮・活たこ刺身・たこ旨だし鍋・たこ天・たこ釜飯・お吸い物…。果物以外、全部たこだ!
「たこという食材は淡白な味わいですので、いろんな食感と味わいを楽しんでください」。お店の方にご説明いただくやいなや、かぶせ気味に「いただきます!」と、海に届くくらいの大きな声で、箸をつけ始めた。
「せっかくだし、お昼から飲んじゃおうね」。せっかくだし、は旅を豊かにする免罪符だ。その土地のものをいただくには、その土地のお酒が一番ということで、地元の銘酒「醉心」の純米生原酒をいただくことにした。
お酒と一緒にたこ会席が到着した。たこのやわらか煮・活たこ刺身・たこ旨だし鍋・たこ天・たこ釜飯・お吸い物…。果物以外、全部たこだ!
「たこという食材は淡白な味わいですので、いろんな食感と味わいを楽しんでください」。お店の方にご説明いただくやいなや、かぶせ気味に「いただきます!」と、海に届くくらいの大きな声で、箸をつけ始めた。
まずは、たこのやわらか煮。甘い醤油味のたこが極限まで柔らかく炊き込んである。箸で持つのも慌てそうになるくらい柔らかく、口の中でほどけた。活たこの刺身は、薄造りと吸盤に分けられており、本来の甘みを感じられるようにお醤油と梅肉で。吸盤の野生的な食感と、薄造りにも関わらず、噛むほどに味わい深い旨味に思わず言葉を失った。「これまた、地元のお酒も合うねえ」。軟水仕込みによる味わいを楽しめる食中酒「醉心」が、たこをぐいぐいと進ませる。
ずっといい香りを漂わせていた、たこの旨だし鍋は、たこの出汁とオリジナルの合わせ味噌が特徴だ。双方が良さを生かしあっており、たこはもちろん、野菜がいくらでも食べられそうだ。お次はたこ天。各店によって様々なサイズで提供される三原の名物だという。登喜将さんでは生だこを揚げた一口サイズのものをいただく。「こんな食感、初めてだよ!!」。 染み出してくる甘みを活かすのには塩でさっぱり、がいい。
まずは、たこのやわらか煮。甘い醤油味のたこが極限まで柔らかく炊き込んである。箸で持つのも慌てそうになるくらい柔らかく、口の中でほどけた。活たこの刺身は、薄造りと吸盤に分けられており、本来の甘みを感じられるようにお醤油と梅肉で。吸盤の野生的な食感と、薄造りにも関わらず、噛むほどに味わい深い旨味に思わず言葉を失った。「これまた、地元のお酒も合うねえ」。軟水仕込みによる味わいを楽しめる食中酒「醉心」が、たこをぐいぐいと進ませる。
ずっといい香りを漂わせていた、たこの旨だし鍋は、たこの出汁とオリジナルの合わせ味噌が特徴だ。双方が良さを生かしあっており、たこはもちろん、野菜がいくらでも食べられそうだ。お次はたこ天。各店によって様々なサイズで提供される三原の名物だという。登喜将さんでは生だこを揚げた一口サイズのものをいただく。「こんな食感、初めてだよ!!」。 染み出してくる甘みを活かすのには塩でさっぱり、がいい。
ああ、めくるめく「たこシンフォニー」も間もなくフィナーレか…。たこ釜飯の蓋を開けると、まだまだ食欲を刺激する薫りが立ち込めた。
ほっくりした銀杏と人参のシャッキリ具合がたこの食感と合わさって楽しく、おこげまで一気に空になってしまった。お吸い物のたこのつみれは、長く幸せな余韻を残してくれた。
徹頭徹尾たこ。終始一貫たこ。気持ちいいくらいに、たこ。「もう、手足が8本になってもおかしくないわ!」。口を尖らせおどけたセイラが、満足げにお腹をさすりながら笑う。「ごちそうさまでした!」。
「タコはね、茹でると紅白になることと黒い墨を吐くことから『苦難を煙に巻く』という意味が込められていてね。『多幸』と漢字を当てられることからも、縁起物とされているんだよ」。多幸感に包まれる、縁起物だらけの昼食。
三原の海域は潮の流れも速く、たこは流されないよう足をしっかり踏ん張っているため、引き締まった歯ごたえを堪能できるのだという。私たちも、いつも踏ん張ってるものね。今日くらいはふわふわして、いいよね。とふわふわお店を後にした。
徒歩3分ほどで、先ほど通りかかった三原港に到着する。「え?何?おもしろい移動手段って…船!?」セイラの表情がさらに華やぐ。「そう!ここから観光型高速クルーザー『SEA SPICA(シースピカ)』に乗ります!」。
手続きを済ませ乗船の時間を待つ。様々な島への時刻表が掲示されているのを見ると、海の交通が地元の人の足であることがわかる。
13時25分。いよいよ乗船だ。アロハのユニフォームを着たスタッフさんに案内され、胸を弾ませタラップを渡ると、ネイビーの船体に煌めく真珠星「SPICA」と瀬戸内海の島々を結ぶ航路をデザインしたロゴマークが輝いている。
徒歩3分ほどで、先ほど通りかかった三原港に到着する。「え?何?おもしろい移動手段って…船!?」セイラの表情がさらに華やぐ。「そう!ここから観光型高速クルーザー『SEA SPICA(シースピカ)』に乗ります!」。
手続きを済ませ乗船の時間を待つ。様々な島への時刻表が掲示されているのを見ると、海の交通が地元の人の足であることがわかる。
13時25分。いよいよ乗船だ。アロハのユニフォームを着たスタッフさんに案内され、胸を弾ませタラップを渡ると、ネイビーの船体に煌めく真珠星「SPICA」と瀬戸内海の島々を結ぶ航路をデザインしたロゴマークが輝いている。
非日常感あふれる船内に入りシートに座る。エンジンがかかると、音と振動が気持ちまで震わせてくれる。前方にある4面のモニターには船首からの景色と現在地の地図。マリンガイドさんのアナウンスも軽快だ。
「これからね、ゆっくり約4時間半かけて広島市内へと向かうよ」。
今回は「西向き航路」のクルーズだ。この航路は、瀬戸内の中でも特に風光明媚なエリアで、大小の島々が連なる美しい景色を表す言葉「多島美」を存分に味わうことができる。
(※2024年10月時点のコースとなります。コースは今後変更となる可能性がございます。)
途中、うさぎの島として知られる『大久野(おおくの)島』と江戸時代に港町として栄えたレトロな町並みが残る『大崎下島・御手洗(みたらい)』の2島に立ち寄って、瀬戸内海の潮風と、島々の雰囲気を感じることができる。
船内は指定席だが、2階に移動したり売店に立ったりと気軽に移動ができる。 AC電源やフリーWi-Fiも利用可能で、1階後方のカウンターではオリジナルグッズや飲み物、軽食が販売されているのも嬉しい。
「2階に出て、多島美を堪能してみようか」。お昼のお酒で軽快になった足でテラスへと向かう。中央部には瀬戸内の島々をモチーフにしたユニークなソファがあり、海を望む両サイドと船尾には、ハイセンスなデッキチェアが設けられている。
「SPICAって、おとめ座で最も明るい恒星のことだよね?」。自然に詳しいセイラが、エンジン音にかき消されないよう大きな声で言う。そう、夜空に青白く輝いて春の大曲線を形成する一等星のひとつで、日本では真珠星と呼ばれている。「『せとうちの青い海の上で、美しい輝きを放ちながら人を自由で開放的な旅に誘う船。それが、せとうち観光型⾼速クルーザー『SEA SPICA』なんだって!」。
二人でデッキチェアに腰掛け、両手を天に広げ深呼吸をする。一般的なクルーズ客船の速度が15~20ノット (時速約27.8km~37.04km)といわれる中、『SEA SPICA』の航海速力は22ノット (時速約41km)なので、潮風がなんとも言えず心地いい。船尾に伸びる白い波に向かって、陽気にバタ足のマネをするセイラ。飲ませがいのある友人だ。
途中すれ違う大小様々な船、島。空と水面からの光と海からの風に包まれ、天国にいるような気持ちでいる間にも船は進む。日常の小さな悩みは、すべて船尾の泡と化し、波の間に消えていく。
「あ、オレンジ色の橋だ。かわいい!」。マリンガイドさんのアナウンスによればこれは生口(いくち)島と高根(こうね)島との間に架けられた橋で、高根大橋というそうだ。
高根島の特産である柑橘類をイメージし、さらなる振興を願ってこの色になったという。平成8年には島の小学校が廃校になってしまったそうで、時々、小学生が生口島へと渡る姿も見られるらしい。そんなアナウンスを聞いて、急に子供たちのことを思い出した。
テレビ人形劇のモデルになった「瓢箪(ひょうたん)島」、その後ろに国内最長1480mを誇る多々羅大橋を眺め、うさぎの島として有名な大久野島に到着。ここでは30分ほどの下船観光を楽しむことができる。
周囲約4kmのこの小島は、かつて毒ガス工場があったことから「地図から消された島」と呼ばれていたそうだ。現在は国立公園に指定され、約500~600羽ものうさぎが棲息することで知られていると同時に、毒ガス製造に関わる史跡も残され、戦争の悲惨さを訴え続けている。
桟橋を渡って上陸すると、愛らしく鼻を動かしながら、うさぎがこちらへとやってきた。「1971年に地元のある小学校で飼われていた8羽が放されて野生化し、繁殖したという説が有力だって、さっき言ってたね」。同時に、戦争当時は13歳くらいから毒ガスの製造に携わらなければならなかった現実も船内アナウンスで知り、平和のありがたみを噛みしめた。
海岸沿いに、うさぎ耳のオブジェを見つけた。集音器だ。頭を入れて耳を澄ますと、風音やさざ波の水音をうさぎの気分で楽しめる。大小並んでいる様子はまるで家族用のようで、みんなの顔を思い出した。
あっという間に30分が経過し、再度船に乗り込んだ。「喉が渇いたね」。「せっかくだし、飲んじゃう?」と、1階後方のカウンターに向かう。そこには、何種類もの地酒が用意されていた。
せっかくなので、この島の住所でもある竹原のお酒にした。中尾醸造の吟醸誠鏡。瀬戸内海のような爽やかな青いボトルにグラスまで付いている。
スピードを上げ始めた船内でやや辛口の吟醸酒を味わう。ほぼ目線の位置で、瀬戸内海を眺めながらの一献。
飛行機や列車内で飲んだことはあったけれど、クルーザーで、はなかったな。海を見ながら酒を飲むと、これほどまでに魚を食べたくなるのか!海面下に、竜宮城のような風景を思い浮かべる。揺れとスピードも相まって、酔いがいつもより早く進んだ。
大久野島毒ガス資料館
かつて大久野島では、大量の毒ガス兵器が製造されていました。当時、毒ガス製造の実態を隠すため、大久野島一帯は空白地域として扱われ“地図から消された島”と呼ばれるにようになりました。現在では休暇村として整備され国民の保養地となり、島内には砲台跡、
発電場、毒ガス貯蔵庫等と、当時の面影は僅かしか残っていません。当時の悲惨さを訴え、そして恒久平和を願う目的で1988年にこの資料館が建設されました。今では年間多くの方が、この地を平和学習の場として訪れています。
〒729-2311 竹原市忠海町5491
https://www.takeharakankou.jp/spot/4346
大久野島毒ガス資料館
かつて大久野島では、大量の毒ガス兵器が製造されていました。当時、毒ガス製造の実態を隠すため、大久野島一帯は空白地域として扱われ“地図から消された島”と呼ばれるにようになりました。現在では休暇村として整備され国民の保養地となり、島内には砲台跡、
発電場、毒ガス貯蔵庫等と、当時の面影は僅かしか残っていません。当時の悲惨さを訴え、そして恒久平和を願う目的で1988年にこの資料館が建設されました。今では年間多くの方が、この地を平和学習の場として訪れています。
〒729-2311 竹原市忠海町5491
https://www.takeharakankou.jp/spot/4346
大久野島から30分少々。2箇所目の下船観光スポットとなる、大崎下島の御手洗に到着した。心なしか日差しが柔らかい。耳に入ってくるのは、船を繋ぎ止めておくロープの軋む音と、小さな波が寄せる音。のどかだ。
瓦屋根の木造住宅の間の路地でさえ映画のセットのように見えるのは、実際に撮影が行われている場所だからだろうか。
ここ御手洗は、町並み保存地区として
江戸から明治~大正、昭和初期の建造物も多く残っており、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定を受けるなど、今もなお貴重な歴史を有しているエリアだ。数々の映画やCMのロケ地としても有名な観光スポットで、歩いて移動できるコンパクトさが魅力だという。
まずは中心地にある「常磐町通り」を散策する。木造住宅の木の香りをまとった風が、路地を優しく行き来している。
洋館建ての理容店のところで足を止める。歴史と海を間近に感じるロケーションが作り出すその風合いに足が止まる。並びには、直せないものはないと言う何年も予約待ちの時計店。昭和30年代まで映画館として親しまれてきたモダン建築の乙女座は、現在は演芸や地域のイベントで有効活用されているという。
時が止まった中で、今も続く営みの不思議な心地よさ。踵が路地を鳴らす音、虫の音、風の音だけが耳に響く。いつもの日常とは真逆の時間。大人だけで来るにはふさわしい場所だ。
江戸時代後期に芸州藩が築いた防波堤「千砂子波止(ちさごはと) 」と、その突端で灯台の役目を果たしてきた「高燈籠(たかどうろう) 」を見終えたら、そろそろ出航の時間だ。
乗り込む前に、恵比須神社に立ち寄ることができた。
船内アナウンスで聞いていた、御手洗の三社めぐりのうちの一つ。三つの神社にはそれぞれご利益アクションというのがあり、学問の神様、天満宮では本殿下のトンネルをくぐる。海運の神様、住吉神社は石積みにある「江戸のツル・カメ」をさする。そして商売の神様、恵比須神社は鳥居を抱き、好きな人の名を叫ぶというものだ。
好きな人と円満である場合には、さらに想いを深めることができるという。二人で鳥居に抱きつき海に向かって叫んだ名は、互いに子供たちのものだった。
旧柴屋住宅
旧柴屋住宅は、大長村庄屋役及び御手洗町年寄役を代々勤めた高橋家(屋号柴屋)の別宅の一部で、伊能忠敬が島の測量をする時に宿舎にしたと伝えられています。建物の奥にある蔵には「伊能忠敬御手洗測量之図」のレプリカほか、当時を知る様々な書物などが展示されています。
〒734-0302 呉市豊町御手洗174
https://www.city.kure.lg.jp/soshiki/
67/m000259.html
旧柴屋住宅
旧柴屋住宅は、大長村庄屋役及び御手洗町年寄役を代々勤めた高橋家(屋号柴屋)の別宅の一部で、伊能忠敬が島の測量をする時に宿舎にしたと伝えられています。建物の奥にある蔵には「伊能忠敬御手洗測量之図」のレプリカほか、当時を知る様々な書物などが展示されています。
〒734-0302 呉市豊町御手洗174
https://www.city.kure.lg.jp/soshiki/
67/m000259.html
呉へと向かう船内でも、アナウンスに耳を傾けていた。
「豊島」には腕のいい漁師たちがおり、受け継がれてきた漁法で釣り上げられたタチウオが有名なこと。広島県の鳥にも指定されているアビという渡り鳥と協力して行う「アビ漁」というものがあること。それらの話は恰好の肴となり、いつの間にかお酒の瓶は空になった。
瀬戸内海に浮かぶ島々を、庭園をわたる飛石(とびいし)にたとえて名付けられた「安芸灘とびしま海道」の島々。本州四国連絡橋群を除き、都道府県道に架かる橋の中では、日本最大の吊橋「安芸灘大橋」。
呉市の警固屋町(本土)と音戸町(倉橋島)の間を流れる幅90mの海峡が「音戸の瀬戸」。それらの名所を悠々と眺めながら、広島港へと向かう。
遠くからジオラマのように見えていた製鉄所が、近くに見えてきた。2023年に停止をしたため人気はなく、それ自体が巨大なオブジェのようで、不思議な迫力があった。
船内のアナウンスに伴ってデッキに多くの人が集まり、程なくして艦船と潜水艦が間近に見えてきた。今回の「西向きコース」クライマックスでもある「海上自衛隊呉基地の艦船遊覧」だ。スピードを落として接近してくれるので、様々な角度から、それらを眺めることができる。
呉基地は、かつて「東洋一の軍港」と謳われた、神奈川県横須賀市の横須賀港と並ぶ、海上自衛隊の主要基地だ。造船所の大型船、海上自衛隊の艦艇、潜水艦。ここでは実に様々な艦船を間近に感じることができる。
この旅に来るきっかけをくれた近所の雑貨店のオーナーが体験した「夕呉クルーズ」。きっと、その景色と同様のものだろう。聞いてた以上の圧倒的なリアルが、目の前に迫ってくる。
この日は運良く国内最大の護衛艦「かが」が停泊していた。全長は248m。
戦艦「大和」を建造した呉海軍工廠(旧帝国海軍直営の工場)造船部のドックを眺めながら、「かが」と「大和」がだいたい同じサイズであったことがアナウンスされた。
約80年も前。スマートフォンどころかインターネットもない時代に、当時最先端の技術で建造された世界最大の戦艦は、こんなにも大きなものだったのか。
映像や文献でしか見たことのない戦艦とほぼ同じサイズの護衛艦が、数十メートル先に、実態として存在している。この国を護ってくれている自衛隊の方が、甲板の上で働いているのが見えた。感謝の気持ちを込めて大きく手を振ると、応えるように振り返してくださった。 瀬戸内の美しい風景はもちろん、この方々の勇姿を、子供たちにも見せたいと思った。
広島港が見えてきた。すっかり空は夕焼け模様で、西日に照らされ輝く航跡に、自身の来た道を重ねてしまった。
大丈夫。よくやってきたし、これからもきっと楽しい。自分のために使える時間をくれる家族に改めて感謝し、つい「ありがとう」。と口にした。
「お別れではなく、新たな再会を楽しみに」。という最後のアナウンスに、今度は家族と一緒に、と誓った。
広島港には18時に到着した。ターミナルを出ると、すぐ目の前に広島電鉄の広島港駅がある。「さあ、夕飯を食べに行こう!」。路面電車に乗って市街に移動する。
40分弱で広島市の中心街にある立町駅に到着する。広島名物のお好み焼や鉄板焼きはもちろん、焼肉や定食屋、BARなどが軒を連ね、大変な賑わいを見せている。その中に、白の清潔感あふれる暖簾がかかった一軒。瀬戸内さかなと日本酒が楽しめる「ひろしま旬彩 鶴乃や本店」で今日はディナーだ。
2階に上がり個室へと案内していただく。櫛引の壁に掘りごたつ。今日一日の出来事を振り返りながらゆっくり話すには、ぴったりの場所だ。
唎酒師(ききざけし)でもある女将さんに日本酒をお願いすると、東広島・亀齢(きれい)の純米酒「山」をおすすめいただいた。軟水仕込みで芳醇。辛口純米なので米の旨みがしっかりしており、魚料理にしっくりくる、とのこと。
「うちは、お店の名前が鶴乃や、ですよね。それと亀齢で『鶴と亀』。 縁起を担いでメインに据えているんです」。味はもちろん、縁起もいいと!
「お魚も、ぜひおすすめをお願いします」。気さくでお話ししやすい女将さんに続けてお願いをする。
「そうですね、メインのお造りは『おこぜ』でいかがでしょうか。こちらは広島の中央卸市場で一番上がる魚で、広島の魚というと鯛などたくさんおすすめはありますが、取扱量もナンバーワンですので。季節も良いし、淡白だけれど甘味があって良いですよ」。他では食べられないものを私たちは食べにきているのだ。ぜひ!とお願いをした。
他にも、おまかせでお願いをすると、目にも美味しい広島の逸品が、次々とテーブルに並んだ。
「じゃあまず、おこぜから…」。姿造りから一切れ。淡白なので舌が繊細な旨みを探しにいく。日本酒と出会わせてやると一気に口の中が華やぐ。
添えられた皮や肝と一緒にすると、より海の滋味を感じさせてくれる。
お次は穴子。お刺身で食べられるのは鮮度あってこそ。加えて、鶴乃やさんでは片側だけ皮目を残す技術で食べさせようという演出だ。炙って脂から出る上品な甘味と香ばしさに、蒸しや焼きとは違った歯応え。噛むたびに旨みが滲み出してくる。
生産量No.1でもある牡蠣は、江田島産の三倍体、つまりは産卵をしないので、栄養分を失うことがなく、うま味成分がたっぷり詰まっている。 一口ほおばれば口の中が潮の風味でいっぱいに満たされ、お猪口と殻を交互に口に運んだ。
最後は「ウニホーレン」。こちらは銀山町に昔からある名店「中ちゃん」の先代が考えた看板メニュー「ウニクレソン」が元となっており、今では多くの店舗がそれぞれ独自のアレンジをしている広島名物だ。女将さんも、それを食べて育ったという青春の味で、こちらでは卵も一緒に炒め、よりマイルドにして提供している。
至高の酒肴の数々に、グラスを口に運ぶ手が止まらない。
明日のことも、家のことも、何も気にすることなく、美酒美食、そして会話にただ酔うひととき。
「子供たちと一緒だったら、こんなにゆっくりできないからね」。
そう言葉を交わしあうほどに、子供たちのことばかりを考えていた。
鶴は千年。亀は万年。その歳月から比べれば、私たちの一生なんて星の瞬きだ。この酔いも、明日の朝には醒めてしまう。だからこそ。目の前の一瞬一瞬を、輝くものにしていこう。
無事であるだけで縁起が良い。今この瞬間は、心からそう思える。明日の広島滞在もそうであることを祈って、私たちは亀齢のおかわりを頼んだ。
特にオススメの時期
今回の旅と合わせて楽しめる、
おすすめ非日常旅
このウェブサイトでは、お客様のコンピューターにCookieを保存します。 このCookieは、ウェブサイト体験の改善のため、またより個人向けにカスタマイズされたサービスを提供するためにこのサイトおよび他のメディアで使用されるものです。 当社のCookieについての詳細は、プライバシーポリシーをご覧ください。当サイトでは、訪問者の個人情報を追跡することはありません。
承認